平成24年度
個人研究
研究テーマ
円筒土器文化における文様割付の研究
研究者
小林 謙一(中央大学文学部)
研究成果概要
縄紋土器は、その多彩な文様装飾によって知られている。文様装飾のあり方から型式内容を解明する努力は、土器文化の時空間的整理や系統性を理解する上でも、またそれらの物質文化を生み出した縄紋人の精神性、土器製作の技術、文様の象徴性や装飾に対する認識を探る上で興味深い題材を与えてくれる。
筆者は、関東・中部地方の中期土器に対して文様割付の分析をおこなってきた。今回は三内丸山遺跡出土の円筒下層a式から大木10式までの縄紋時代前期・中期土器108個体について土器装飾の施文過程を文様のレイアウトを中心に模式図的に整理し、割付の施文過程の規則性を検討する。
区画数については、全時期を通して口縁部区画4区画が圧倒的で、胴部区画は0すなわち区画無しが多い。円筒下層式・上層式土器群が、きわめて伝統的な区画数・割付方法をとり続けていること、その中でも土器を置いて製作者が面したときに奥側に相当する区画のズレが大きい傾向があり、特定の土器文様割付方法が想定できそうなこと、大木8b式・榎林式期ころに土器の区画数・割付の変化が認められ、急激に多様化が進み、区画数1~6まで分散する。割付方法の変化は、全時期を通して口縁部は均等割付が多いが、一部がややずれる傾向があり、地面において土器製作する際の奥側の割付がややずれていると考える。
「据え置き型」と仮称し、円筒土器の特徴的な割付法と考える。大木8b式以降は割付方法も次第に変化が見え、伝統的な円筒土器も製作から変化が生じていることが指摘できる。今後さらに三内丸山遺跡における円筒土器文化・大木系土器の区画数・割付方法を調査し、土器製作方法に見る連続性や、その背景にあろう文化的な土器作りの好みについて検討したい。
研究テーマ
三内丸山遺跡からみた貯蔵食物害虫Sitophilus属の生態と進化過程の研究
研究者
小畑 弘己(熊本大学文学部)
研究成果概要
世界三大貯蔵害虫の一つとして著名なコクゾウムシSitophilusMotschulskが縄文土器の圧痕として検出されたのは、2005年のことである。現在では九州のみで34遺跡136点、九州以外の2遺跡19点を加えると366遺跡155点となる。このコクゾウムシ属甲虫は、その胸や翅はねの大きさからみて、ドングリ・クリなどの人間の貯蔵食物を加害対象とし、現在より野生に近い生態をもっていた。
つまり、彼らは野生のブナ科種子で生育する日本在来種の甲虫であり、それらが、人間の定住化による乾燥デンプン質食物の貯蔵行為の出現とともに害虫化したものと考えられる。三内丸山遺跡は19点のコクゾウムシ属甲虫の圧痕が検出されており、本州地域ではもっとも多い。さらにその生体化石が発見された縄文時代の遺跡としては本遺跡が唯一である。
コクゾウムシ属甲虫の圧痕が出土する遺跡は、そのほとんどが定住集落と想定される遺跡であり、その出現率は遺跡の規模や定住度に比例するという印象がある。三内丸山遺跡もその例外ではない。三内丸山遺跡における昆虫の圧痕はコクゾウムシを含めそのほとんどが家屋に住む害虫であり、土器作りの場は貯蔵堅果類などを保存しておく屋内であったことを物語っている。
年報
年報 17