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三内丸山遺跡についてabout

平成20年度

自由課題研究

研究テーマ

石器残存デンプンからみた三内丸山遺跡の植物利用の変遷

研究者

渋谷 綾子(総合研究大学院大学文化科学研究科博士課程)

研究成果概要

 本研究では,三内丸山遺跡の石皿50点の残存デンプン分析を行い,検出デンプンの形態と石器の出土場所との関係性,および時期によるデンプンの形態的な変化を検証した。平成18年度の研究では三内丸山遺跡の石皿から残存デンプン粒を検出し,デンプン分析の有用性を実証した。今回の研究では,この平成18年度研究の成果についても再検討するため,これらの調査資料を含めて,住居址内から出土した石皿23点と,道路や墓などの住居址以外から出土した石皿27点の合計50点を調査対象とし,検出デンプンの形態分類を行って,遺構別,時期別に検討した。

 調査の結果,出土遺構によってデンプンの形態や検出量が異なることや,時期によってデンプンの形態が変化していくことが判明した。デンプン形態の全体的な推移としては,住居址内・住居址外どちらの石皿についても,前期末葉から中期末葉にかけて,円形のデンプンが減少し,多角形のデンプンが増加する。住居内出土の石皿ではこのような変化が顕著にあらわれており,次第にデンプンの形態が多様化している。一方,住居外出土の石皿のデンプンは特定の形態に収斂していく。こうした違いは石皿の出土場所(遺構)による違いに起因しており,特に,住居址内出土の石皿のデンプン形態が多様化するという結果は,遺跡内でさまざまな植物が利用されるようになったことを実証すると考える。

 

 

研究テーマ

円筒土器文化圏における食料加工技術の研究結果概要 ―礫石器の使用痕分析および残存デンプン粒分析を中心に―

研究代表者

上條 信彦(弘前大学人文学部)

研究成果概要

 本研究では、円筒土器文化圏における、(半円状打製)扁平石器の機能・用途に関する分析を通じて、当文化圏の食料加工の実態を解明することを目的とした。分析の方法は、①組成比・②使用痕観察・③デンプン粒観察・④使用実験を用いた。その結果、他の礫石器との共通点と相違点を見出すことができた。

 ひとつは、時期的に扁平石器に前後して増加・減少する、側面に磨耗痕をもつ磨石・特殊磨石・石冠の3つとは、②~④で共通する特徴を見出した。このことは、道具の形状は異なっていても、同じ使用法や対象物が想定される。②・④の結果によって、扁平石器は堅果類など比較的硬めの皮をもつ植物への敲打が想定される。また、表裏面には紐状のものが長軸に巻きついていたと想定された。一方、扁平石器と他の石器との相違点として、機能部が刃のように薄い形状である点については疑問が残る。これには、単に殻を剥く以外の目的があったと考えられる。この点については、②・④の結果だけでは検討できなかった。しかし、堅果類以外の植物質食料の敲打の可能性として、根茎類の敲砕工程に用いられた可能性を指摘した。

 また、扁平石器は、②~④ともに敲打痕をもつ敲石と異なる結果を得た。一般的に敲石は、石材や骨角器などの敲打作業によって形成される使用痕とされる。したがって、扁平石器は、石器や骨角器製作用の工具として用いられた可能性は低い。凹痕・磨耗痕をもつ磨石・敲石とは、②使用痕観察・③使用実験では異なる結果が出た一方、③デンプン粒観察では、一部が、扁平石器のデンプン粒の分布圏内にあった。凹痕は、硬い先端をもつものを敲打した際に形成される使用痕とされる。そのため、石材やクルミ核のようなものが対象であったと想定される。本研究では、詳細な検討を行わなかったが、デンプン粒が検出された点で、食料とのかかわりを示唆する結果を得た。磨耗痕は、④使用実験の結果、堅果類など植物などの軟質物の粉砕によって形成されることが分かった。③デンプン粒観察では、扁平石器のデンプン分布圏を含みつつも、扁平石器の加工対象物以外に対しても使用されていることが判明したことから、扁平石器より多用途的な石器であったと推察される。

 三内丸山遺跡の主体時期に後続する近野遺跡の水さらし場状遺構に伴う石器群との比較の結果、扁平石器は減少しつつも、側面に磨耗痕をもつ磨石や石冠の増加がうかがえ、扁平石器の減少後も、同様の機能・用途をもった石器が、継続していたことが分かった。その中で特に注目されるのは、発達した磨耗面をもつ磨石と、石鹸状の形をした磨石が増加する点である。②・④の結果をふまえると、堅果類の殻むきのうえに、粉砕作業が活発化したことがうかがえる。トチの実の効率的な食料化には粉砕工程が不可欠である。関連研究から指摘されているように、本研究で見出された変化の背景として、水さらし場を用いたトチの大量処理のための効率的な加工法の導入があったと考えられる。

 

 

研究テーマ

岩石考古学の構築:岩石学の手法を用いた縄文石器の解析

研究者

前川寛和(大阪府立大学大学院理学系研究科)

研究成果概要

 縄文文化研究の創造拠点といえる三内丸山遺跡において、岩石学の解析法を考古学に積極的に導入し、考古学と岩石学との境界領域としての「岩石考古学」を構築するための端緒として本研究を行った。具体的には、三内丸山遺跡から出土した石器を研究対象に、岩石学の主要な解析手法である偏光顕微鏡観察や電子線マイクロアナライザーによる組織解析、鉱物解析、微小領域X線回折装置による構成鉱物結晶の構造解析などの岩石学の研究手法を用いて、石材の品質を解析・評価し、同時に構成鉱物の組織から岩石の成因情報をよみとり、岩石学的に信頼性の高い三内丸山遺跡石材に関するデーターベースを構築した。

 これを元に、以下の2点が明らかになった。(1)緑色磨製石器の顕著な特徴は、我が国の多くの緑色岩が玄武岩質であることと大きく異なり、安山岩質でSiO2量が高いことである。高いSiO2量をもつことで細粒の石英粒が多く含まれ、良質の石斧としての硬さを稼いでいる。さらに、無数の針状のアクチノ閃石が互いに不定方向に突き刺さった特異な組織を有することで、粘り強さを稼いでいると考えられる。(2)三内丸山遺跡から多産する石器類の主要な構成岩種である安山岩は、マグマ混合を経験したRタイプ(非平衡な特徴をもつタイプ)の安山岩である。青森市荒川上流から採取した安山岩の円レキの全てが、大変よく似たRタイプの安山岩で、遺跡近隣が給源である可能性が高い。マグマ混合の有無が安山岩石器の給源特定の鍵になる可能性がある。

 

 

総合研究

研究テーマ

三内丸山など北日本縄文遺跡の漆文化

研究者代表者

岡村道雄(奈良文化財研究所名誉研究員)

研究成果概要

 まず、三内丸山遺跡から出土した縄文時代前期半ばから中期の円筒文化に属する、漆関係資料の全体を把握した。
 漆関係資料としては、植物であるウルシの花粉・種実・樹、漆工関係で漆液をクロメ・ナヤシた容器や貯蔵した容器。
 漆製品には前期の赤漆塗りの刻歯式櫛、黒漆地に赤漆塗りの台付皿、内外黒漆塗りの鉢、赤漆塗りの大杯の取っ手、中期の赤漆塗り木胎容器、樹皮巻き胎の赤漆塗り腕輪、時期不明の漆器片1点と漆膜数片が出土していた。
さらに漆塗り土器が、合計122点確認できた。黒漆塗りの有孔鍔付土器を始め、中期後半の大木系の土器が多く、文様の隆帯に赤漆、地の縄文に黒漆を塗った彩文土器も多い。搬入土器も含まれると考えられ、搬入元は東北南部日本海側であろうか。
 これらに塗布された「漆」について、赤外線分光分析で科学的に漆であることを裏づけ、赤あるいは黒漆に用いられた顔料の成分は蛍光X線分析で調べた。赤漆はベンガラを用いていることが明きからになり、黒漆の顔料は確認できなかった。
 またウルシ樹の花粉・種実・樹幹が確認され、漆液容器、漆製品が発見されたことは、ウルシの栽培、漆液の採取、漆製品の製作までの一連の工程が、三内丸山集落で行われていたことを示す。また、中期には漆塗り土器が搬入されていた実態が明らかになった。

 

 

年報

年報 13