令和4年度
研究テーマ
三内丸山遺跡における枝回転文土器の調査と土器製作季節の推定
研究者
矢野健一(立命館大学)
研究成果概要
三内丸山遺跡の第6鉄塔地区から、縄文前期の円筒下層a~b式(約6000年前)に位置付けられる「枝回転文土器」が出土している。この枝回転文土器は、木の枝を回転させて文様を施したことはわかっているが、木の樹種はわかっていない。文様を施すために選んだ木には特別な意味があるのかもしれない。このことから、本研究では木の種類(樹種)を特定することを目的とし、検討をおこなった。また、木の先端部の芽の状態から、どの季節の枝を利用したかを推定した。
三内丸山遺跡で報告されている枝回転文土器1点について調査、及び茅野嘉雄氏のご教示により、ヤチダモという木の枝の短枝に密集する葉痕を利用していると判断した。(1)枝の先端付近の直径が1㎝近い、(2)葉痕が互生する、(3)葉痕が半円形に近く、小さな「維管束痕」が多数弧状にめぐる、(4)葉痕の縦列の間隔が短い、(5)半円形の葉痕上端中央に接するように冬芽が発芽する、といった条件を満たす枝を東北大学植物園所蔵標本の悉皆調査によって調べた結果、モクセイ科トネリコ属の落葉広葉樹であるヤチダモ以外には考えにくいという結論に達した。また、円筒下層式の枝回転文は3種に分類されているが、器面状態と施文方法を変更すれば、3種とも同一原体で施文可能であることを実験で確認した。
枝先端部の冬芽が形成されるのは夏の終わりから春先までだが、葉痕のある短枝は年間を通じて入手できるため、枝の入手季節の特定は困難である。葉痕だけではなく、冬芽自体の痕跡を有するものがあれば、秋から春先に限定できるはずである。
研究テーマ
三内丸山遺跡出土土器付着炭化物の脂質分析-前期から中期へ煮炊きは変化したのか?-
研究者
宮⽥佳樹(東京⼤学総合研究博物館)
研究成果概要
三内丸山遺跡から出土した縄文土器の内面付着炭化物に含まれる脂質(有機物)を分析することで煮沸内容物を推定し、三内丸山遺跡における土器の使い方や、食のあり方について復元を行った。
土器付着炭化物の脂質分析結果から、縄文時代前期中・後葉(円筒下層式土器)は、クリやドングリなどの堅果類、陸獣などの陸棲の動植物から、魚類や海獣類などの海棲動物まで、多様性のある食材選択を行っていた。縄文時代中期前・中葉(円筒上層式土器)になると、植物質の影響がほぼ見えなくなり、陸獣と海棲動物中心の食材選択に変化していき、中期後葉(榎林・最花・大木10 式土器)になると、陸棲動植物は検出されず、海棲動物中心の食材選択へと推移した。
バイオマーカー解析の結果、全ての時期に関して、植物質の影響は見られるものの、分子レベル炭素同位体組成からは、前期から中期にかけて、植物質の影響が小さくなり、海棲動物の影響が大きくなる傾向が伺えた。
これまで花粉分析によって、縄文時代前期から中期にかけて、クリやトチノキなど、植物利用の盛衰が指摘されていたが、煮炊き内容物の変遷を調べることにより、海産物利用が段階的に大きくなることを初めて指摘した。